Wedding Essay

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ESSAY 01

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いつかは結婚式を挙げるんだろうなと、ぼんやり思っていたけれども。

二十二歳のとき、はじめて結婚式に参列した。新郎は会社の上司だった。ド薄給かつド激務で、まだ大学生でもあったわたしは、ご祝儀の金額を調べてあわてふためいた。ドレスまで金策がまわらず、大阪花博の蚤の市にて牛丼一杯と同じ値段で叩き売りされていたシルクのワンピースに身を包み、パンプスを油性マジックで塗りつぶすという逆シンデレラのような出で立ちで駆けつけた。

新郎新婦がヨチヨチ歩きから徐々に立派になっていくスライドショーからの、ご両親への手紙を読みあげる流れで、ダバダバと滝のように泣いてしまった。おおむね予想通りのことが、予想通りに語られるだけなのに、圧倒的な幸せのおすそわけという波にのまれてゆく。

フィナーレは、庭の大階段でみんなが花道をつくり、新郎新婦をフラワーシャワーで送り出すという演出だった。スタッフさんが提げたカゴの中から、淡いピンクと白の花びらをひと掴みして渡してくれた。

「新婦さんがこだわって選ばれたフラワーシャワーなんですよ」

そう言われて鼻を近づけると、いい香りがした。よく見れば、ふわふわした小さな羽根も混ざっている。

新郎新婦が階段を降りてくると、順々にパッ、パッ、と花が舞っていく。見たことのない華やかな光景だった。さあ、いざわたしも、とフラワーをシャワーしようと振りかぶると、おもむろに新郎が身をこちらによじり、ぼそぼそっと喋りはじめた。

「ていねいに投げて!それ!ひと掴み五百円!羽根入りがプラス二百円!ほらっ!カメラにちゃんと見えるように!投げえっ!」

あの時の新郎である温厚な上司の、張り付いた笑顔の奥に見える必死な形相はずっと忘れられない。わたしが投げたひと掴み五百円のフラワーは、たまたま吹いたそよ風で、すべてわたしの顔面に吸い込まれてしまった。

結婚式っていくらぐらいかかるんだろうと思い、調べてみたら、だいたい300万円くらいとあった。招待する人数や、受け取るご祝儀で、夫婦の懐から出ていく金額は違うそうだけど、その時は「すごい金額だなあ。でも、一生に一回だもんね」と軽く流していた。

軽く流しとる場合やないと気づいたのは、つい先日、車を買ったときである。歩けない母のために、ここでは語り尽くせないほど奇跡的な事情があり、手だけで運転できる特注の車を贈ることになったのだが、キャッシュで300万円をドンと用意した。一瞬で手の平を離れていく札束の喪失感に呆然としながら、ふと、思う。

その車の耐久年数はおよそ20年。しかも長年ずっと岸田家が憧れて検討に検討を重ねてきた車種だ。1日あたりたったの410円で、20年も夢に乗れると考えたら悪くない。

ちょっと待って。
じゃあ3時間で終わる結婚式って。

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今ならフラワーシャワーに目の玉をひん剥いていた気持ちがよくわかる。

やらなければいいし、もっとお手頃に済ませる方法はいくらでもある。わかっている。だけど、その選択をした場合、お金より価値のあるなにかを失うんじゃないかと思うとおそろしい。

おもむろに母へ話すと「まあまあ、そんなのいざ結婚!って決まってから悩めばいいよォ」と呆れて笑っていたが、そういう母の結婚式はどうであったかと聞くと、苦い顔で見せられた一枚の写真には名古屋城のシャチホコよりも光り輝く金色の屏風と、あまりの逆光に輪郭がぼやけている上にガチガチに緊張した白無垢の母と、半目でむくんだ顔の亡き父が写っていた。

「昭和のバブルで周りはみんな挙げてたし、こんなもんかなって……」
「もう一度やり直せるなら?」
「えーっ、えーっ!そんなの……まあ、やり直す、かなあ」

それみたことか!

車だって12年間、考えに考え続けて寝言が“ボルボ(車種)”になるくらい悩んだから、悔いのない決断ができたのである。結婚式だってそれぐらい考えなければならない。いや、今からだって遅いぐらいなのだ。

赤ちゃんはよく泣く。あれは赤ちゃんも、理由がよくわからないまま泣いている。お腹が減ってる、おむつが濡れてる、ただひたすら眠い、そういう感情への解像度がまだ低いから「なんかわからん!イヤ!とにかくイヤァッ!」で泣く。

われわれ大人も、この「なんかわからんくて上手く説明できんけど、とにかくなんか嫌やねん!なんでわかってくれへんのや!」が原因でどつきあいになるんじゃないかと、わたしは思っている。

まだ結婚の予定も、挙式の予定もないが、いざパートナーができたとき。お互いの希望をすり合わせましょうかという段階で「わからん」が発動したら、なんやかんやで妥協の結婚式を迎えてしまうかもしれない。

ひとりで、今のうちに、結婚式について考えておこう。

そう決めたわたしは、まずコンビニで漬物石よりもズッシリした結婚情報誌を買い求めた。エコバッグを忘れたので、両手で抱えて帰った。心なしかすれ違う人の眼差しが優しかった。

「自分らしい結婚式を見つけよう!」という、わたしのような迷える婚前羊におあつらえ向きのページがあった。いくつかの設問に答えると、自分らしい結婚式がわかるという親切仕様である。

早速やってみた。一問目から挫折した。

「あなたが希望する結婚式は?」という設問で、選択肢は「明るく開放的」か「厳かで神聖」だった。イメージができない。これがラーメンで「あっさり」か「こってり」だったら、こってりで即答できるのに。結婚式における好みがそもそもわからない。

とりあえず保留して次へ進むと「結婚式は誰のためにしたいと思う?」という設問で「自分たちのため」か「家族や友人のため」だった。どっちもではアカンのか。そんで、どっちを選ぶとなにがどうなるんだ。どちらを先に助けるかを迫られるヒーローのような苦悩に襲われる。

「やりたい演出は?」という設問には「吹き抜けの階段から派手に登場」という選択肢が用意されていたが、かつてのミュージックステーションの登場シーンだけが思い浮かんでしまう。やりたいのか、やりたくないのか。それすらもわからない。

そしてたどり着いた「岸田らしい結婚式」は「ナチュラル&リラックス挙式」だった。なにもかもがしっくりこないまま選んだので、当然、結果にもしっくりこない。試着室で着せられたはいいものの、似合ってるかどうかもわからず、疲れた頭で判断力がバグる、買い物で一番やばい時の感覚に似ている。

あかん、あかん。

雑誌ではなく、母にたずねてみることにした。娘のどんな結婚式を見たいか。育ての親であれば、滲み出るわたしらしさを嫌というほど見てきているはずである。

「そんなの、あんたと旦那さんがやりたいと思う式をしてくれたら一番嬉しいんだから」

母は迷いなく言った。これは嬉しかった。

「本当に?」
「もちろん」
「どこで挙げてもいいの?」

母が一瞬、押し黙った。

「そりゃあ……ハワイだったら嬉しいけど」
「えっ」
「もちろん、あんたがやりたい場所が一番よ。でも特になかったら、ハワイとかいいと思う」

藪から棒ならぬ、藪からハワイである。

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ところでわたしは、ものを書くにも、人を招くにも、相手を笑わせることが好きである。これはわかっている。

そこで「岸田奈美が考える、おもしろい結婚式の要素」を思いつく限り書き出し、それをネットのアンケートにしてみた。ツイッターで公開してみたところ、なんと30分で5000人ものフォロワーから回答があった。

集計した結果は、一位「式次第の脚本が三谷幸喜氏」、二位「参加者全員がダーツに挑戦し、特賞はパジェロ」、三位「料理がすべて『美味しんぼ』に出てくる料理」だった。あと「BGMがすべて『こち亀』のサウンドトラック」や「新婦勢と新郎勢にわかれて相撲トーナメント」なども人気が集まった。

しかし賢い人々から「結婚式はそういう笑いよりも、列席者をもてなして感謝を伝える場だ」と、穏やかにたしなめられてしまった。ぐうの音も出ない。

もてなして、感謝をする。

それはわたしが得意で好きなことであるはずなのに、結婚式となると、途端にわからなくなる。なにをすれば家族が喜ぶかを考えたらいいよと言われたので、とりあえずダウン症の弟のことを想像してみたが、彼はいつも「からあげ!ラーメン!チャーハン!」と満面の笑みで返すので、そのへんの町中華を貸し切るのが一番幸せなのでは。

そもそも、別に結婚式じゃなくたって、感謝は伝えられる。

だけど。
だけど、やりたい気もするのだ。
キレイなおべべを着て、思う存分、ちやほやされてみたい気もするのだ。
母のハワイへの欲望と同じくらい、わたしの姫への欲望も噴出してくる。ハワイで姫になってみたい気もする。

朝5時まで悩んだ末に、気づいた。

結局わたしは、自分のことをまだよくわかっていないんじゃないか。自分がやりたい結婚式のことではなく、自分そのものすらも。なんのために生まれて、なにをして生きるのか。頭のなかのアンパンマンが両肩を掴んで揺さぶってくる。

生まれとか生きるとかを考えると途方もないけど、「誰にどんなことをしている時が幸せなのか」くらいは、たどり着けるはずで。簡単な言葉に言い換えれば、それは「好き」という感情だ。嫌いなものは聞かれてもないのに理由をつらつらと説明できるけど、好きなものは説明が難しいのって、わたしだけだろうか。とにかく好きとしか言えない。語彙力が消える。

結婚式は、細かすぎる「好き」の積み重ねで、できているのかもしれない。好きだから感謝を伝えたいと思うし、好きだからもてなしたいと思う。

さあ、話が壮大になってきたぞ。

幸運にもこのタイミングで、テイクアンドギヴ・ニーズさんから、結婚式についてのコラムを書く機会をいただけた。結婚式そのものを愛し、作りあげる人々の知られざる思いにまで触れられる、貴重すぎる機会を。

清少納言が書いた「枕草子」は、彼女がとにかく好きなものと、好きな理由がズラズラッと細かすぎるほどに書かれた、好きコレクションだ。好きを知る旅にも似たこの連載で、わたしのわたしによるわたしのための「結婚式版・枕草子」を書き上げようと思う。

好きを知る旅に出たわたしが考える、最高の結婚式とは、これいかに。

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岸田 奈美(作家)

1991年生まれ、兵庫県神戸市出身、関西学院大学人間福祉学部社会起業学科2014年卒。在学中に株式会社ミライロの創業メンバーとして加入、10年に渡り広報部長を務めたのち、作家として独立。世界経済フォーラム(ダボス会議)グローバルシェイパーズ。 Forbes 「30 UNDER 30 JAPAN 2020」「30 UNDER 30 Asia 2021」選出。2020年9月『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館)、2021年5月『もうあかんわ日記』(ライツ社)を発売。

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